サムライ伝 最新情報
13.08.27『作家メシ ~浅倉卓弥編~』2.ナス

『サムライ伝』著者・浅倉卓弥さんの書き下ろし!
facebook特別企画『作家メシ』2回目です。
 
『作家メシ ~浅倉卓弥編~』
2.ナス
 
気がつけばナスをよく買っている。ほとんど季節を問わず手に入るようになっているせいもあるのだが、何より使い勝手がいいのである。でもどうしてそう思っているのだろうかと改めて自問して、どうやらあまり手間がかからないところが気に入っているらしいと気づく。我ながら怠惰な話ではある。
軽く水洗いしてヘタをとり適当な大きさに包丁で割っただけで、ほとんどの場合基本的な下ごしらえとでも呼ぶべき部分はもう終了しているといってよい。ジャガイモやニンジンのように皮を剥くことから始めなくてもいいし、玉ねぎやキャベツのように芯や傷んだ部分を取り除いたりする必要もない。葉物は切る前からして場所を取るし、洗うのにだってそれなりに神経を使う。そのうえ根も落とさなければならない。
考えてみればナスの調理とはなんと簡単なのだろう。当然の帰結として出てくる生ゴミの量も極めて少なくて済む。これ、結構重要である。さすがにあまりにも楽ばかりしているようでなんとなくナスに申し訳なくなり、近頃は切った後水に晒して灰汁抜きをするくらいの手間はかけるようにしている。
それにしても、改めてつくづくと眺めると何とも不思議な色合いをしている。茄子紺とはよくぞいったもので、ほかに上手い形容詞がすぐにはまるで浮かんでこない。ほとんど黒といってもよいのだが、口に入れるものをその言葉で呼ぶのは何だか憚られる。紫ではあるのだが、決して青と呼べるものではない。おおよそ食材にはとても似つかわしくない種類の色味である。ほかに例を探してもイカ墨か古代米くらいしか思い当たらない。とりわけ野菜にかぎっていえば、ほかに挙げられるものは見つからないのではないかと思う。
彩りのほかにもう一つ気になっているのは、どんな栄養素が含まれているのかが今一はっきりとわからない点である。ニンジンならカロチンとか、トマトならリコピンとか、大仰なのかコミカルなのかわからないようなネーミングの成分が含まれているらしいのだけれど、ことナスに関してはそういう情報が喧伝されているのを見たことがない。ビタミンDの場合のシイタケみたいに、この栄養素が足りない時にはナスを取れば良いんですよ、なんて類の話も寡聞にして知らない。
そんなナスだが、やはり油を使った料理との相性が極めてよい。麻婆茄子や揚げ浸しあたりがすぐに挙がるのではないかと思う。ひょっとするとそれ自体の味よりも、料理全体の味の染み込んだ食感を楽しむべき種類のものなのかもしれない。ギリシャ料理のムサカなど、その最たるものであろう。
おそらくあまりそういう使い方は見かけないのではないかと思うのだけれど、タイ料理のバジル炒めにこのナスを使うとこれが意外に結構いい具合に仕上がってくれる。玉ねぎとナスを適当な大きさに切り、塩コショウで下味をつけた鶏挽肉と一緒に炒める。大体満遍なく火が通ったら同じフライパンにバジルを加え、全体に再度軽く塩コショウを振り、最後に赤唐辛子とナンプラーを加えて味を整える。これで調理は終了である。カレーライスよろしくご飯と一緒に同じ皿に盛り付けて、そこに目玉焼きを載せればそこそこにエスニックな気分が味わえる。手に入ればフクロダケを加えるとさらに雰囲気が増すのだけれど、缶詰のマッシュルームの水煮でも十分に代用が利く。どちらにせよ、キノコは縦に二つに割っておき、バジルより少し手前のタイミングで鍋に放り込めばよい。

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